SDMの実践:
がん検診でSDMをどのように行うか
2. がん検診版 SDMの進め方
基本的には集団を対象としつつ、検診未受診者や精密検査未受診者などを対象とした介入から初めていくことが、より現実的な方法となろう。DAによりがん検診対象者へ情報提供をしつつ、その中で対話を求めている人々を救い上げるシステムを構築していく必要がある。都道府県のがん対策推進計画で示されたサポーター制度やがん検診ヘルプラインなどの活用も考えられる。また、検診未受診者や精密検査未受診者へリコールの段階での相談体制の設定などにより、SDMの機会を広げていく可能性もある。また、SDMのきっかけとなる情報提供ツールについてあらゆる情報媒体が使われているが、依然として印刷物は重要な役割を占めている。
本研究班で行ってきた研究においても、多くの患者(受診者)はがん検診について何らかの疑問や意見を持ち合わせおり、何らかの機会を提供することにより、受診に結び付くことが示された。SDMの進め方については、USPSTFの示す「5A Framework」やElwynらの提唱する「3 Talk Model」がある。国内でSDMを行う場合は、患者(受診者)・医療者の意思決定だけではなく、医療機関の紹介や予約などを含む支援が含まれるべきである。
集団をベースとした我が国のがん検診では検診未受診者を対象としたSDMを勧めることは困難である。しかし、大腸がん検診や子宮頸がん検診では精密検査受診率の改善や継続受診につながる可能性はあり、本研究班の試行調査でも一定の成果をみている。特に、ナースナビゲーションの過程に、SDMの手法を取り込むことで、より系統的なアプローチが期待できるであろう(図 4)。
図4. がん検診型SDMの進め方
先行研究や本研究班での成果を踏まえ、がん検診版SDMとして、表 9、表 10の5段階アプローチを提案する。基本的な考え方は「5A Framework」や「3 Talk Model」と共通するが、患者(受診者)の価値観を尊重するといった考え方が定着していない我が国では第3段階が特に重要である。大腸がん精密検査未受診を例とし、標準的な支援を示した(表 10)。ASSESS(評価)では精密検査未受診者の立ち位置や未受診理由を確認、ADVISE(助言)では全大腸内視鏡検査を推奨、代替案の大腸コロノグラフィを提示、AGREE(同意)では、受診者の価値観や優先度を探りどちらを受けるかを聞き出し、ASSIST(支援)では医療機関を紹介し、検査の受け方をはじめとする疑問に回答するなど相談支援を継続する。ARRANGE(調整)では、受診日のリマインド、受診後の体調確認、次回の検診やサーベイランスを実施。患者(受診者)の健康意識を通して、個々人の優先順位や価値観を捉える。同時に、科学的根拠に基づく検診の説明により検診に関する誤解をも解いていくことが課題となる。「5A Framework」では、科学的根拠に基づく説明が求められる。受診者の疑問に対応できるよう、科学的根拠や情報を研究班のホームページで提供していく予定である。
表9. がん検診版 5A Framework
5A Framework | 内容 | |
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ASSESS | 評価 |
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ADVISE | 助言 |
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AGREE | 同意 |
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ASSIST | 支援 |
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ARRANGE | 調整 |
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表10. 大腸がん精密検査未受診者向け 5A Framework
5A Framework | 内容 | |
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ASSESS | 評価 |
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ADVISE | 助言 |
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AGREE | 同意 |
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ASSIST | 支援 |
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ARRANGE | 調整 |
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TCS:全大腸内視鏡、CTC:大腸コロノグラフィ |