SDM:がん検診への応用-3. USPSTFにおけるSDM

SDM:がん検診への応用

3. USPSTFにおけるSDM

USPSTFは予防対策におけるSDMの進め方として、系統的に5段階のアプローチ「5A Framework」を勧めている(表 51)。評価(ASSESS)の段階で、患者(受診者)の要望を確認した上で、助言(ADVISE)で科学的根拠に基づく推奨グレードAとBに相当する予防対策を勧め、代替案を提示しつつ、利益・不利益、科学的根拠の不確実性などの情報を提供する。同意(AGREE)を経て、支援(ASSIST)を行う。さらには、調整(ARRANGE)の段階で経過観察し、次のアクションにつなげるという方法である。同法は行動変容のカウンセリングに応用されている2)

USPSTFは、科学的根拠に基づき推奨グレードを設定しているが、患者(受診者)自身の価値観(value/preference)に基づく選択を重視している1)。推奨グレードは科学的根拠を示すだけではなく、各グレードに応じた情報提供を行い、患者(受診者)の価値観を尊重し選択できるよう支援することを勧めている。最近ではSDMの考え方をより反映し、ガイドラインの推奨グレードによりSDMの対象、情報提供の内容や提示方法を提案している(表 63)。推奨のグレードにかかわらず、すべての検診方法の選択にはSDMが必要となる。ただし、グレードごとに提供する情報は異なっている(表 7)。推奨グレードAでは検診方法の基本的な情報に限定されるが、推奨グレードBやCでは利益・不利益を具体的に示すことで、患者(受診者)がより具体的に検討できるような形で情報が提供されている。推奨グレードDやIステートメントなど現状では実施できない方法については、積極的なSDMではなく、必要に応じて議論ができるように準備することを提案している。一方、科学的根拠が明確であり、多くの人が受けるべき推奨グレードAとBについては、対象となる方法の利益・不利益、他の選択肢を伝えるとともに、患者(受診者)の理解度や価値観の確認が必要としている。SDMは選択肢が複数存在する場合に限定して行われるわけではなく、推奨される方法の利益・不利益を正しく伝え、判断を支援することにある。選択肢には「受診しない」という判断も含まれることから、基本的に選択肢のない推奨は存在しない。受診をためらう場合には、理解度を確かめた上で議論の期間を設けることが追加されている。最も対応が問題となるのは、一部の対象者に条件付きで推奨するグレードCである。推奨グレードCは利益・不利益の差が小さいことから対象が限定され、選択する・しないの両者が存在する。その最たる例がPSA検診であり、その場合には、検診の利益・不利益バランスを定量的に評価できるファクトシートが用いられる。

表5. 5A Framework
5A Framework 内容
ASSESS 評価
  • 患者(受診者)の必要としている健康改善(緊急の対応が必要か、予防対策は利用できるか)
  • 意思決定においてどのような役割を努めたいか
ADVISE 助言
  • 科学的根拠に基づき推奨されている予防対策
  • 代替案となりうる予防対策(科学的根拠がない、あるいは不明な予防対策)
  • 科学的根拠に基づく情報(利益・不利益、代替案、不確実性)
  • 適切な根拠があれば勧める
AGREE 同意
  • 患者(受診者)の価値観を明らかにする
  • 次のアクションを決める次のアクションを決める
ASSIST 支援
  • サービスを提供する
ARRANGE 調整
  • 患経過観察
  • 将来のプランをたてる
表6. USPSTFにおける推奨グレード別SDM3)
推奨
グレード
利益と不利益の差 対 応 結 果
A 利益が不利益を大きく上回ることが確実である
  • 利点と欠点、妥当な対象、他の選択肢を提示する
  • 患者(受診者)の価値観や理解度を確認する
  • ためらう人がいたら、理解度を確かめて議論する
  • 多くの人は受容
  • 受容できない人もいることを理解する
  • HIV感染リスクの高い人の予防薬服用
B 利益が不利益をある程度上回ることが確実である
  • 患者(受診者)の価値観が判断に影響する可能性あり
  • 利点と欠点、妥当な対象、他の選択肢を提示する
  • 患者(受診者)の価値観や理解度を確認する
  • ためらう人がいたら、理解度を確かめて議論する
  • 多くの人は受容
  • 受容できない人もいることを理解する
  • 乳がんハイリスク者の予防薬服用(タモキシフェンなど)
C 利益が不利益をわずかに上回ることが確実である
  • 患者(受診者)の価値観が判断に影響する可能性あり
  • 利点と欠点、妥当な対象、他の選択肢を提示する
  • 患者(受診者)の価値観や理解度を確認する
  • 質問する人だけではなく、すべての人に公平に対応
  • 選択する人もしない人もいる
  • PSA検診
D 利益がないかあるいは利益が不利益を上回ることはないということが確実である
  • 議論ができる準備をする
  • 質問されない限りは議論は不要
  • 症状がない場合には勧めない
  • 卵巣がん検診 
I 科学的根拠が不十分
  • 質問される場合に備え、科学的根拠がないことを説明し議論する準備をする
  • 心房細動検出を目的とした心電図検診
表7. 推奨グレード別情報比較
推奨
グレード
介入方法の説明 利益・
不利益
バランス
内容 対象 必要性 効果 副作用
A HIV予防
B 乳がん予防
C PSA検診
文 献
  1. Sheridan SL, Harris RP, Woolf SH; Shared Decision-Making Workgroup of the U.S. Preventive Services Task Force. Shared decision making about screening and chemoprevention. a suggested approach from the U.S. Preventive Services Task Force. Am J Prev Med. 2004;26(1):56-66.
  2. Whitlock EP, Orleans T, Pender N, Allan J. Evaluating primary care behavioral counseling interventions: an evidence-based approach. Am J Prev Med. 2002;22(4):267-84.
  3. US Preventive Services Task Force; Davidson KW, Mangione CM, Barry MJ, Nicholson WK, Cabana MD, Caughey AB, Davis EM, Donahue KE, Doubeni CA, Kubik M, Li L, Ogedegbe G, Pbert L, Silverstein M, Stevermer J, Tseng CW, Wong JB. Collaboration and Shared Decision-Making Between Patients and Clinicians in Preventive Health Care Decisions and US Preventive Services Task Force Recommendations. JAMA. 2022;327(12):1171-1176.