SDM:がん検診への応用
3. USPSTFにおけるSDM
USPSTFは予防対策におけるSDMの進め方として、系統的に5段階のアプローチ「5A Framework」を勧めている(表 5)1)。評価(ASSESS)の段階で、患者(受診者)の要望を確認した上で、助言(ADVISE)で科学的根拠に基づく推奨グレードAとBに相当する予防対策を勧め、代替案を提示しつつ、利益・不利益、科学的根拠の不確実性などの情報を提供する。同意(AGREE)を経て、支援(ASSIST)を行う。さらには、調整(ARRANGE)の段階で経過観察し、次のアクションにつなげるという方法である。同法は行動変容のカウンセリングに応用されている2)。
USPSTFは、科学的根拠に基づき推奨グレードを設定しているが、患者(受診者)自身の価値観(value/preference)に基づく選択を重視している1)。推奨グレードは科学的根拠を示すだけではなく、各グレードに応じた情報提供を行い、患者(受診者)の価値観を尊重し選択できるよう支援することを勧めている。最近ではSDMの考え方をより反映し、ガイドラインの推奨グレードによりSDMの対象、情報提供の内容や提示方法を提案している(表 6)3)。推奨のグレードにかかわらず、すべての検診方法の選択にはSDMが必要となる。ただし、グレードごとに提供する情報は異なっている(表 7)。推奨グレードAでは検診方法の基本的な情報に限定されるが、推奨グレードBやCでは利益・不利益を具体的に示すことで、患者(受診者)がより具体的に検討できるような形で情報が提供されている。推奨グレードDやIステートメントなど現状では実施できない方法については、積極的なSDMではなく、必要に応じて議論ができるように準備することを提案している。一方、科学的根拠が明確であり、多くの人が受けるべき推奨グレードAとBについては、対象となる方法の利益・不利益、他の選択肢を伝えるとともに、患者(受診者)の理解度や価値観の確認が必要としている。SDMは選択肢が複数存在する場合に限定して行われるわけではなく、推奨される方法の利益・不利益を正しく伝え、判断を支援することにある。選択肢には「受診しない」という判断も含まれることから、基本的に選択肢のない推奨は存在しない。受診をためらう場合には、理解度を確かめた上で議論の期間を設けることが追加されている。最も対応が問題となるのは、一部の対象者に条件付きで推奨するグレードCである。推奨グレードCは利益・不利益の差が小さいことから対象が限定され、選択する・しないの両者が存在する。その最たる例がPSA検診であり、その場合には、検診の利益・不利益バランスを定量的に評価できるファクトシートが用いられる。
表5. 5A Framework
5A Framework | 内容 | |
---|---|---|
ASSESS | 評価 |
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ADVISE | 助言 |
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AGREE | 同意 |
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ASSIST | 支援 |
|
ARRANGE | 調整 |
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表6. USPSTFにおける推奨グレード別SDM3)
推奨 グレード |
利益と不利益の差 | 対 応 | 結 果 | 例 |
---|---|---|---|---|
A | 利益が不利益を大きく上回ることが確実である |
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B | 利益が不利益をある程度上回ることが確実である |
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C | 利益が不利益をわずかに上回ることが確実である |
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D | 利益がないかあるいは利益が不利益を上回ることはないということが確実である |
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I | 科学的根拠が不十分 |
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表7. 推奨グレード別情報比較
推奨 グレード |
例 | 介入方法の説明 | 利益・ 不利益 バランス |
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内容 | 対象 | 必要性 | 効果 | 副作用 | |||
A | HIV予防 | ✓ | ✓ | ✓ | ✓ | ✓ | |
B | 乳がん予防 | ✓ | ✓ | ✓ | ✓ | ✓ | ✓ |
C | PSA検診 | ✓ |
- Sheridan SL, Harris RP, Woolf SH; Shared Decision-Making Workgroup of the U.S. Preventive Services Task Force. Shared decision making about screening and chemoprevention. a suggested approach from the U.S. Preventive Services Task Force. Am J Prev Med. 2004;26(1):56-66.
- Whitlock EP, Orleans T, Pender N, Allan J. Evaluating primary care behavioral counseling interventions: an evidence-based approach. Am J Prev Med. 2002;22(4):267-84.
- US Preventive Services Task Force; Davidson KW, Mangione CM, Barry MJ, Nicholson WK, Cabana MD, Caughey AB, Davis EM, Donahue KE, Doubeni CA, Kubik M, Li L, Ogedegbe G, Pbert L, Silverstein M, Stevermer J, Tseng CW, Wong JB. Collaboration and Shared Decision-Making Between Patients and Clinicians in Preventive Health Care Decisions and US Preventive Services Task Force Recommendations. JAMA. 2022;327(12):1171-1176.